世界でいちばん愛に溢れた七人

 

 BTSに出会ってから毎日がもっと楽しい。

 

 幼い頃から日本の音楽より海外の音楽をよく聞いていた私は、元々韓国の音楽も楽しんでいた。KPOPのいわゆるアイドルも知っていたけれど、特に女の子達が好きでRed Velvetなどに至っては推しもいた。しかしBTSは夫の勧めで結構最近知った。それまでよく知らなかった。

 第一印象は、「そりゃあ世界で成功するわけだ」と思った。揃いも揃って美しいビジュアルはどうしても目を引くし、踊りは彼らの技術と素晴らしい振付のおかげでとんでもないステージでも見ている気分になる。日本でアイドルというと口パクのイメージがある気がするが、彼らはちゃんと歌って音を外さない。上手い。ちょっと調べると彼らはみな楽曲作成にも携わっているらしい。

 BTSの音楽は少し不思議だ。どれにおいても、初めてその曲を聞いたときの抵抗感・違和感が極端に少ない気がする。キャッチーでいて独特だ。どの国の音楽にも似ていない。ラップパートも、韓国語のラップをまともに聞いたことがない人間にとってもすんなり入り込めるものになっているのは、おそらく彼らがそう配慮しているのではなく無意識にそんなような音楽を作れるのだろう。加えてきっと、携わっている専門家や演奏者にも惜しみなく投資と感謝をしているのだろう。

 歌詞はどれも赤裸々だ。そこがまた人間味があって良い。なんだかかっこいいことを言ってそうだなと思って和訳を見てみると「アイドルだかアーティストだか知らない、勝手に呼んだらいい、俺達は俺達の音楽が好きだから」「思っていたより高くに来てしまって降下が怖い」「セレブごっこなら他でやってな。俺達は何も変わってない」などと、ともすればマイナスイメージに繋がってしまう恐れもあるような、きっと大半のメジャーアーティストが遠慮するような感情も吐露していたりする。それは鼓舞だったり、不安だったり、自負だったり、孤独だったり、色々な感情が彼らの中にカオスに共存しているからこそだ。

 そうした注目されるべき彼らの音楽に最後に、メンバーによるダンスという最高のエッセンスが加わり世界が完成する。七人のうち二人を除いてほぼみなダンス未経験だったわけだが、どうだろうか、彼らのパフォーマンスを見てそれを感じるだろうか? 感じないとしたらそれは、そこに彼らの血の滲む努力があった証拠だ。つむじから爪先まで全身を使った力強く、切なく、繊細で、堂々とした七人の表現。表情にまで気が遣われていて見るたび感心してしまう。ストーリー性からカメラの映り、観客からの目線まで計算した七人を一体にする振付と、楽曲の世界観に溶け込む衣装・メイク・ヘアメイクと、彼らの努力の結晶が合わさり、BTSの世界が構築される。

 以前、The Tonight Showでおなじみ司会のJimmyが、「(グランド・セントラル駅でのBTSのパフォーマンスのあと)メンバーとハグをしたんだけど、ジョングクだったかな? ハグしたんだけど、心臓がバクバクいっていて感激したんだ。なんていうか、頑張ってる! って、感動して」のようなことを話していた。彼らを見ているとその気持ちがよくわかる。彼らは頑張っている。頑張っているのだ。それはもう練習で怪我するほどに、まともに寝られないほどに。ワールドスターの肩書きとただ一人の青年との、その狭間で常に頑張っている。こんな青年達が他にいるだろうかと思ってしまうほど、彼らはみな同じ水準で同じ熱量で同じ感情で、いつでも全力でひたむきに真面目に人生を頑張っている。

 いつも最も感動しているのは、何より彼らの”愛”だ。彼らは本当に驚くほど何度も何度も、そして真っ直ぐに、「ARMY(ファンの総称)の皆さん、愛しています」「感謝しています」「僕達が頑張れるのはあなた達のおかげです」と、私達ファンに愛を伝えてくれる。何かの節目だからとかではない、日頃から何度も何度もだ。その姿勢は日常の忙しなさで忘れてしまいそうな愛の正直な伝え方を、伝えることの大切さを、私達に教えてくれる。「Love Myrself」「Life goes on. Let's live on」のメッセージを国連でスピーチするのにこんなにふさわしい青年達もいない。ファンとの距離感も絶妙で、彼らはアイドルでもあるが疑似恋愛スタイルでは決してやっていないのがまた巧妙だと思う。

 そしてメンバー間でもよく愛を伝える。インタビュー中やバラエティ番組の企画の最中にだって、「尊敬している」「大好き」「彼がいたからこの事務所に入った」「ダンス上手くなったね」と、素直に率直に言葉に出す。誰かが服を着て「似合うかな?」と問うとすかさず誰かが「よく似合うよ」と答えてくれる。ステージ上で泣き崩れてしまったメンバーの元にはすぐに他のメンバーが駆けつけ、背中をさすってくれる。誰かが生放送を始めると高確率で他のメンバーが顔を出しに来る。彼らは何度も話合いをするらしい。七人の関係性が丁寧で、温かくて、私達ARMYは安心する。事務所との関係も良好のようで、(アイドルの色々なバタバタに慣れてしまったからかこれには結構驚いたのだが)彼らにはメンタルケアの先生もついているようだ。素晴らしいではないか。表舞台に立つ彼らを支えながら一緒に走る事務所のしてきた様々な試行錯誤と投資の功績は大きい。

 しかし彼らの愛は関係者や周囲のみにとどまらない。愛国心が強く、楽曲や衣装にも韓国文化を取り入れる。そしてこの常に変化する社会で、彼らの作るものは多様性に配慮されていて全方面に優しい。既存の曲をリミックスする際に「Girls」という単語を消し性別を限定しない恋愛ソングにしたり、アメリカでのパフォーマンスの際に黒人差別用語に似た発音を持つ韓国語の歌詞を変えて歌ったり、ファンとセルフィーを撮る企画の最中にムスリム女性を発見したメンバーが「直接触れないように」と他のメンバーに注意喚起したり、彼らは、彼らの生き方は、なんて真面目で優しいのだろうと感動する。これが彼らを世界中に知らしめたひとつの要因となっているのであろうことは、言うまでもない。中性的な容姿でメイクをしたアジア人の彼らが、アメリカ音楽を真似るわけでもないスタイルで、韓国でのスタイルに見事に落とし込んで、成功した理由のひとつだ。YouTubeでの彼らの楽曲のリアクション動画だって、様々な人種・性別・年齢の人々が投稿している。

 もちろん彼らにも過去はある。そういったスタイルではない時代もあった。しかし彼らは確実に成長していて、経験から学び、考え、悩み、大人になっていっている。自分を愛する意味さえわからなかった少年が、人々の愛にふれ、愛を伝え、毎日着実に大人に育っていく。

 それと、BTSの魅力を語るうえで当然のことすぎて忘れていたが、彼ら七人は非常に仲が良い。誰もが個性に溢れた人間なのに、七年という長い時間を共に過ごすことができたということはつまり、それだけの互いへの気遣いとすれ違いと歩み寄りがあったわけだが、それを乗り越えた今の彼らはなんというか”安定している”。今となっては「昔は君、ほんと怒りやすかったよねハッハッハッ」「あのメンバーとは上手く付き合っていけるか心配だった」「解散も考えた」なんて過去の笑談にして話しているほどだが、ここに到達するまで、長く暗く辛い期間が彼らに確実にあったのであろうことが、ファンとしては少し苦しい。

 こんなに幸せになってほしいと願ってしまうアーティストもいない。彼らが「アーミー、サランヘヨ」と画面の向こうで笑うたびに、私達は恩返しの方法を探して探して狼狽し、結局泣いてしまう。来年も健康に笑っていてほしい。美味しいものをたらふく食べた後に安全な場所で10時間くらいねむってほしい。彼らの生き様をずっと見ていたいARMYにとっては彼らの愛が宝石なのだが、彼らにそう伝えてもまた「ありがとう、僕達もARMYの皆さんを愛しています」と言われてしまう。

 ……なんだか無心でここまでダーッと書いてしまったが、肝心のメンバーそれぞれの話ができなかった。また書きます。枯渇を知らない愛がいつか枯渇するまで。